「管仲」(ネタバレあり)

 宮城谷昌光さんの小説「管仲」を読了しました。

 管仲といえば春秋の一覇「斉の桓公」を支えた名宰相。というか桓公を覇者たらしめた人物です。宮城谷さんは「晏子」「孟嘗君」「太公望」と斉の国の重要人物を小説にしてきました。これらの人物を時代順にならべて読めば斉の国の歴史が一通り分かるような感じです。(個人的にはこれらに加えて中山・燕のひとですが「楽毅」も含めたい)こうくると超重要人物である管仲を外すわけには行きません。宮城谷さんも春秋時代を知るにあたってすぐに管仲を書きたいという思いをもったそうです。しかし、とある難問が解決できずに書き始めることが出来ないまま何年も経過してしまった。このまま管仲を書く事ができなかったとしたら、春秋戦国時代の楽しさを宮城谷さんの小説から教わった私としてもとても残念なことになるところでしたが、きっちり解決していただき宮城谷さんの管仲を読むことが出来てとても幸せです。

 以降ネタばれを含む感想です。読んでいない方は読み終えてから見ることをお薦めします。もったいないです。

 鮑叔がかっこいい!男の中の男です。管仲不遇の時代にきっちりとその才能を見抜く眼力。管仲が商売を失敗したり儲けの大半を取ったりしたときの包容力。奥さんを守りとおす意思の強さと行動力と人脈を使いこなす力、桓公の未来を見据えて早めの出奔をする決断力。桓公を君主にしたあと、功績第一の自分が宰相になれるところを管仲を推挙した無私無欲なところ。欠点がありません。

 結局この物語は管仲桓公を覇者にしてめでたしめでたしなんですが、この桓公を君主にしたのも鮑叔の功績、桓公管仲を推挙したのも鮑叔の功績なんですよね。そのうえで国の運営上からはきっちり身を引く。歴史上の奇跡です。素晴らしい。

 読後感が良かったのですぐに「香乱記」を買ってきました。これは秦末漢初。司馬遼太郎さんの「項羽と劉邦」の時代の斉(いったん秦に亡ぼされたあと復興した斉)の田横のお話です。「項羽と劉邦」が大好きなので、その時代が宮城谷視点ではどう見えるのか、どう描くのか楽しみです。