英仏百年戦争

 「傭兵ピエール」や「双頭の鷲」の著者、佐藤賢一さんが書いた「英仏百年戦争」を読みました。これは非常にお薦めです。

 歴史を考える上で大事な視点に、その時代に生きた人たちの意識や常識があります。司馬遼太郎さんが「項羽と劉邦」の一番最初にこう書いています。

「それまでこの大陸は、諸方に王国が割拠し、つまりは分裂している状態こそ常態であるとされてきた。」

 始皇帝が考え出した「皇帝」という存在についても、現代人が持つような皇帝という存在の権威を当時の人達は理解していなかったと描写しています。

 当時の人にとって見れば、中国が統一されるというのは異常自体であり、皇帝という言葉も作られたばかりの新語であり、その存在に対する敬意や畏れを持ちようもないのです。

 ですが、現代人の感覚からすると、皇帝はもう当然のように偉いものですし、中国は統一されている方が常態です。その感覚を最初で修正しようとしているのでしょう。そういう現代人でありながら当時の人間の感覚を想像できるような感性を持てる人を私は尊敬します。

 で、本題です。この「英仏百年戦争」という本は、現代人が持っているイギリスとフランスという国家間の戦争というイメージをぶち壊し、イギリス人という感覚やフランス人という感覚を持っていなかった当時の人たちが、百年という長きにわたる争いの中で、イギリス人やフランス人になっていくさまが見事に描写されています。

 それだけでなく、ジャンヌダルクの時代だけでは分からないそれ以前からの潮流を源流からさかのぼって描いてくれているので、百年戦争というものの全体像がすんなり理解できるようになっています。

 私はこの本を読まなかったら、イギリス王ってフランスにもいっぱい領土を持っていたんだなーという認識から抜け出すことはなかったでしょう。是非読んでいただきたいお薦めの本です。